《千葉詩話会》実施 報告E

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……2019年 9月・詩話会(第96回)………………………………… 

山本光一詩集『命なりけり もえの和菓子アルバム』を読む


9月21日は山本さんの詩集を読みました。(出席17人、司会・白井恵子)

和菓子職人の女性・もえを主人公に、季節に合わせた和菓子の作り方、俳人の男性との恋愛や
結婚などを織り交ぜたストーリーを展開していくという独創的な世界です。
和菓子のもつ日本の繊細な四季を俳句的な感覚も織り交ぜています。

「ユニークな詩集で芸術性をもつ、日本の食文化の繊細さが良く表されている」
「構成がうまく出来ている」
「色々な和菓子が出てきて感心する。女性の気持ちで書こうとした所に長短がある」
「小説的な手法で書かれ、詩の範囲を広げる挑戦として評価できる」
「客観的に和菓子を見て詩の材料とした点が詩の書き手としては参考になる」

といった評価が出ました。最後に山本さんが、
好評だった作品「遠い空と海よ」「山の和菓子」を朗読しました。

詩集から 「山の和菓子」

美月山水堂謹製の古くからの山の和菓子

山笑う)
緑のきんとんに白いきんとんを少し入れつぶ餡を包む
木々は潤みをおび新芽が生まれる
山は春の陽に照らされ笑みを浮かべ
ベールのようなうすい霞がかかる

(山滴る)
錆のある草色に染めた葛を岩に白い部分を水に見立て
山は濃い緑に覆われ生を謳歌する
岩肌から滴り落ちる清水は夏でも冷たく
水分を集めて空に大きく盛り上がる入道雲

(山粧う)
赤黄緑のきんとんを織り交ぜつぶ餡を包む
やがて滅びゆくものの輝き
赤黄緑が綾なすこの世のものとも思えぬ世界
しぐれ雲が切れると秋の陽が山を明るく照らす

山眠る)
小豆のつぶ餡を中高にまとめその上に白砂糖を
山は雪でやわらかく覆われずっと眠り続ける
雪雲は北山にふんわりかかり
京の街にも風花が舞う

   *

この時代に生まれ行き抜き
そして死んでいった
あたしの父親やK先生をはじめ
今までお世話になった多くの人々の顔と思い出
閉店後お店の喫茶店でひとり
宇治茶を飲みながら「山眠る」を食べていると
知らないうちに眼が潤み
ありがとうとつぶやいているあたし

合評作品

根本明「空色の」・大掛史子「外苑」・池田久雄「セブンティ」・「おきつねさま」・山本光一「再会の日は」・
秋葉信雄「To the galaxy instead(かわりに銀河へ)」・長沢矩子「告別式」・村上久江「雨が降る」・
樋口冨士枝「八十歳の決断」・石井真也子「渡し
船」・朝倉宏哉「無人のベンチ」・野村俊「涙」・
秋元炯「ぺらぺらと」・白井恵子「はつなつ」・山中真知子「密告者」

  

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「第11回 詩の研究会」(千葉県詩人クラブ)………………………………………

講演  氏「燃え尽きた戦闘機~零戦の戦い」

『千葉県詩集第52集』参加作品の合評

  

……2019年 7月・詩話会(第95回)…………………………………

秋葉信雄さん「世界伝統詩人協会・英国大会に参加して」


(向かって右・秋葉さん)


この6月7、8日、秋葉さんが参加した「世界伝統詩人協会」のイギリス大会の報告です。
2016年に中国・山東省で開催された大会を詩話会で報告して頂きましたが、今回の開催場所は
イギリス東サセックスのバクステッド・パーク・ホテル。
秋葉さんは遠い日本からただ一人駆けつけた参加者でした。

この協会は韓国と日本の呼びかけで2007年設立。
「伝統詩」とは「数百年を超える歴史を持ち、民衆の間で歌い、書き綴られてきた詩歌。フォークロアあるいは民衆詩」。
日本では短歌、俳句。中国では五音・七言絶句等、韓国では時調がそれにあたるとのこと。

各国代表のパフォーマンスにならんで秋葉さんは自身の俳句を発表したほか、ビートルズの歌を弾き語ったり、
短説作品の朗読、韓国詩人・尹東柱(ユン・ドンジュ)の「序詩」を韓・日・英語で歌ったそう。
ネパールやイギリス詩人による英語の俳句発表等を見て、俳句の世界性を再認識したということでした。

  秋葉信雄「満州 三句」

  
   ・三月の
    満州は紅い
    雪の中だった

   ・銃眼の
    中なる螳螂の
    斧を折る

   ・露戦車と
    夏の狭間へ
    匍匐前進

●合評作品

  
根本明「水に見られている」 山本光一「移ろい」 大掛史子「マモルくん家」 「イボキサゲ」 長沢矩子「近況」 
岡田優子「歩く木」 村上久江「在ればありとて」 おさや川静子「ベランダの鉢植の木と青空」 
結城文「死の完成」 松田悦子「体動かさねば」 石井真也子「雨、風花」 秋元炯「ぼんやりと」

●合評作品から

  
「マモルくん家――菊田守詩集『幼年』に寄せて」
   大掛史子

菊田守さんは詩の中に
生まれ育ち
いまも住みつづけている
東京鷺宮の家を
たびたび呼びもどす

大きなけやきの木が見えたら
そこが僕ん家だよ
けやきや柿の大木がある庭
にわとりがコケコッコーと声をあげ
その卵を蛇が盗んでいき
友だち大勢と柿の木に登って
甘い柿の実をたくさん食べた庭

そうそう
病気で寝ていた母さんの
枕元の水アメのびんに
泥足のままそーっと這い寄って
くり返しこっそり
水アメをなめたのもこの家
――マモルはいつも枕元にきて
  水アメをなめていったのを
  知らぬふりをしていたんだよ
母さんがそう姉さんに言っていたと
亡くなってから聞いたマモルくんは思った
母さんは何でも知っていた

ふだんは厳しい父さんが
頓智を言ってみんなを笑わせ
祭りばやしを横笛で吹いて聞かせ
マモルくんの七夕まつりの短冊に
「雨漏」なんて書き加えたこともあった家

鷺宮が白鷺になって
マモルくんは八十を越えた先達詩人
今年の春も詩の女神が舞い降り
そこかしこすみれは咲き
土筆が二本兄弟のように背比べしている
マモルくん家の庭

                           (司会・秋元炯/根本明・記)

 

……2019年 6月・詩話会(第94回)…………………………………

上手宰詩集『しおり紐のしまい方』を読む

この詩集は第14回三好達治賞を受賞した評価の高い詩集です(版木舎刊)。
上手さんが詩集の詩の傾向やかたちを分け、作品の制作過程や表現意図を解説していきました。

〈詩集のタイトルになった詩のこと〉―「しおり紐のしまい方」、
〈トイレでは何を考えているか〉―「帰宅途中」、
〈詩の一行の出て来かた〉―「どこにも行けないもの」、
〈引用について〉―「向こう岸」「飲まず食わずで」……というように。

上手さんの自己分析の力を思わせ、詩作の秘密を知る楽しさを味わいました。思索と詩的な
イメージを織り交ぜ融合させて展開される個性的な世界です。どこででもメモを取り
詩作に没頭してしまうという話も面白く、魅力的でした。

詩集には「愛」という言葉が頻出し、さまざまな愛を省察した〈愛の詩集〉といえる点でも価値を
高めていますし、人生のくくり方を見つめている所も心に響きます。
出席者の批評・感想はみな好評でした。

   

詩集から  しおり紐のしまい方

  

しおり紐の付いた本は
疲れたらどこでも休みなさいと
木陰をもつ森のようだ

車中であっても 自室であっても
本を閉じるときはいつも 突然くる
何かの理由で顔を上げ その世界をまたいで出る

少し待っておいで すぐに戻ってくるから
そのまま二度と姿を現さなくても
挟まれた紐は 永遠にその場所で待ち続けている

隠れんぼをする子は忘れられたかと思う
探しにきてほしいのは自分ではなく
息をひそめていると光り始める その場所だったが

いつも途方にくれるのが
詠み終わってしまった時の
しおり紐のしまい方である

そこから先に行くべき道は消え
目印のやわらかい杭も
もういらなくなったのだ

足の出ぬよう丸くされて
どこでもよいページで眠りにつかされる
暗がりで目をつぶっている胎児のように

そうではなかった
自分の物語を読み終えたとき 先は閉じられる
ほかの誰も詠みえない私だけの物語だった

その日 私と言葉たちがそこから出て行くと
何もかもが消えた 白いページの中で
しおり紐は 見慣れぬ不思議な文字になる

  

合評作品 

 池田久雄「短詩四編」 岡田優子「月夜のシーソー」 松田悦子「ペラペラの背広」 
長沢矩子「ふしぎ」 村上久江「ゆらら ゆらら」 朝倉宏哉「朝の風景」 山中真知子「没後の匂い」
 根本明「葵」 片岡伸「夜」 石井真也子「花空木」 井田三夫「龍ヶ岡の丈草」

――他に出席:結城文、大掛史子    (司会・松田悦子/根本明・記) 

 

 

……2019年 5月・詩話会(第93回)…………………………………

千葉市詩話会8周年 記念講演 小林稔さん

萩原朔太郎 ――「宿命」に至る成熟と変貌について」 

  

 小林稔さんの朔太郎論。一冊の論集のための概要を10枚のレジュメにまとめて配布され、そのおよそ4割を話された。
氏はまず批評不在の現在を問い、良い詩人とは詩の本質を見極め、書くものが時代の詩であることだと述べた。続いて、

  1. 朔太郎は詩作と人生が一体となっており、詩人としての実存的立場から現実に向かった。
    また作家に内在するありうべき「詩人像」を問い続けた。
  2. 短歌から詩作への転向。1913年、28歳で歌集『ソライロノハナ』を出す。
    与謝野晶子や啄木の影響下で短歌を作ったことで伝統的な文学性を蓄えた。
    そこからロマンチシズムの底にある欲望を抱えた本物の世界に突き当たる。

3.『純情小曲集』の愛燐詩篇では抒情詩から自他的な視点を獲得。
 「人魚詩社」では山村暮鳥『聖三稜玻璃』の前衛性に刺激を受け、かつ 2 の伝統性によってこれを越えた。

4.『月に吠える』の特質は「イメージ自体を裸のまま提出」(那珂太郎)したこと。
また「錯乱の詩法」によって孤立した内的世界をつくり、自我の表層から深層へと言語化した。

 レジュメは口語自由詩、『青猫』と『氷島』について、日本への回帰、モダニズムとの論争と続き、
最後の詩集『宿命』についての考察となる。時間の都合で残念ながら講演は半ばで終わったものの、
内容の濃い刺激的な朔太郎論だった。続きをお聞きしたいものだ。

  

●合評作品
大掛史子「チェーホフの猟銃を抱えて」  秋元炯「居眠り王」  池田久雄「短詩三編」  山本光一 「氷解」 
太田奈江「野の星座」「満ちているとき」  長沢矩子「あの風の中なら」  村上久江「お出でと」  板倉なつ美「ムーンウォーター」
 朝倉宏哉「副葬」 山中真知子「地平線まで」 根本明「黒い手」 秋葉信雄「Still Doing(まだ、やってるさ) 」

加藤圭「水の色」(レアンダー・バイル作を訳詩)  石井真也子「海棠の辻」  白井恵子「花散る、空散る」
――他に出席、船木俱子   (根本明・記)

 

……2019年 4月・詩話会(第92回)…………………………………

尾世川正明さん「詩の難解さについて」

 尾世川さんは千葉市在住の詩人で表現の巧みな運び方とユニークさで知られる。
戦後詩がなぜ難解になったのか、そこを越える新たな詩の方向を考える、というテーマ。
難解になった理由は修辞の過度な追求や、超現実主義によるイメージの増殖などにより、読者が理解する共通認識がないところで書かれていったこと。特に60年代、70年代の詩のラディカリズムの影響が大きい、として天沢退二郎の作品を例に挙げた。
しかしそこから表現の面白さや言葉の新たな組み立てにより豊かな言葉の世界を作り上げていったのが平出隆や荒川洋治で、
平出の「旅籠屋 微熱の廓」、荒川の「水駅」を挙げた。

 尾世川氏は難解さを越える方向として言葉遊び、ポストモダン化、女性性の世界、科学的世界観、表記法の工夫や朗読などを提示。
ご自身の詩「邯鄲の夢」、瀬崎祐さんや水野るり子さんの詩も取り上げた。

 尾世川氏は難解さを越える方向として言葉遊び、ポストモダン化、女性性の世界、科学的世界観、表記法の工夫や朗読などを提示。
ご自身の詩「邯鄲の夢」、瀬崎祐さんや水野るり子さんの詩も取り上げた。

多くの戦後詩人、現代詩人を紹介し、詩の様々な可能性を考えさせられるお話だった。出席者18人。(根本明・記

 

朗読作品

秋葉信雄「Roll up(集合せよ!)」、片岡伸「ひとがた」、出戸端洋平「鳥獣」(富永太郎詩)、星野朋子「小さな公園」、
池田久雄「唐変木」、長沢矩子「片目のわたし」、山中真知子「ひっかき傷」、白井恵子「ささやかな歌」、
樋口冨士枝「春の憂鬱」、おさや川静子「息子と窟」、結城文「河鹿鳴く川」、松田悦子「カメという名の少年」、
朝倉宏哉「地上絵」、翔「零の記憶・T君の八月十五日」、根本明「声はさらに遠く」

  

……2019年 3月・詩話会(第91回)…………………………………

 

池田久雄詩集『会社の定年』を合評


 3月16日の会は25人が出席、池田詩集を読みました。主だった批評としては

・理屈抜きに面白い、ユーモラスで言葉にリズム感があり、調子よく読める。このユーモアは閉塞した今の時代に価値をもつもの。
・饒舌でありながら表現に無駄がない。知性と諧謔性にあふれている。
・タイトルの普通さが逆に新鮮で感動する詩集。

という意見が出ました。またとくに感銘深く読まれた作品として、「父と戦争」を挙げる人が多く、「故郷」「いまわの恋」
「コーヒーと板チョコ」「会社にいかなきゃ」「錦ちゃん」などが続きました。

定年後の生き方の模索やふるさと、家族と主題を展開させつつ、たえずユーモらすに巧みな構成でまとめあげる手法に
感心しきりでした。
詩を書き始めてから短い年月で多くの作品を作り詩集に雌雄としてまとめあげたことにも改めて驚かされました。

 「花見さぼり」  詩集『会社の定年』より

新宿御苑の桜が満開と聞いて
夕方A社を訪問した帰りに立寄った
ソメイヨシノもシダレザクラも
それはそれは美しく桜花爛漫の極みだ

あっ あれはB社の経理部長さんだ
背広にネクタイ 黒鞄を小脇にかかえて
茶室の辺りをのんびり歩いている
桜を見上げる顔も口元も緩んでいる

声を掛けようとして思い留まった
こちらも勤務時間中だ きまりが悪い
堅物で通るあの人もさぼり仲間か
急に親しみを感じた

ややっ これまた驚き
千駄ヶ谷出口でC社の専務さんとばったり
「これは奇遇ですね 花見日和ですね」
悪びれた色もなく先に挨拶されてしまった

桜の魅力に日本中のサラリーマンも
気が緩んで身も心も浮き浮きだ
ほんの少しの息抜き位大目に見てよ
人間らしく生きたいよ と主張している

年に一度の花見さぼりは
日本国黙認の春の非公式行事だ

●合評作品

根本明「まくわりの磯で」、井田三夫「アルテミス」(ネルヴァルの翻訳詩)、星野朋子「ココア色」、
大掛史子「伊勢物語逍遥(その十三)二十三、筒井筒」、森万希「崖」、黒田忠也「引鶴」、
秋葉信雄「Hanging Thred」、翔「飛び続ける ~サン⁼テグジュペリの飛行」、山中真知子「あるチェリストに」
長沢矩子「変わるけれど」、岡田優子「箱の海」、村上久江「そこに」、板倉なつ美「雪」、

石井真也子「白木蓮、辛夷、ホトケノザ」、白井恵子「潮の匂い」、樋口冨士子「森の冬」、結城文「ハニーのように」他2編、
片岡伸「蝶」、野村俊「京都・ひとり」、上山雪香「待つ」、松田悦子「スパ浴場の足」

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