〈千葉市詩話会〉 実施報告 C
…… 10月「詩の入門講座」を開催!…………………………………
10月13日(土)千葉市中央コミュニティセンターの「第40回コミュニティまつり」の中で「詩の入門講座」を
千葉市詩話会と千葉県詩人クラブとの共催というかたちで開きました。
「コミュニティまつり」はセンターを利用する様々な団体の展示会や野菜即売、保育園児から千葉大生のアトラクション、
モノレール会社や警察、消防局の広報活動まであるという幅広い年代が参加する地域そうぐるみの行事でした。
こうした中に「詩」を置くことが果たしてできるのか、予測できない初の試みでした。
6階ホールで14時半から15時という短い時間でしたが、講座は根本明が用意したレジュメ「詩を作る・読んでみる」に沿って
①口語自由詩とは、②詩の種類、③詩の書き方、と述べて行きました。
次に萩原朔太郎「竹」、宮沢賢治「永訣の朝」、室生犀星「小景異情その二」、八木重吉「母の瞳」、石垣りん「シジミ」、
山之口獏「結婚」、金子みすゞ「夕顔」、茨木のり子「自分の感受性くらい」を出席者が朗読しました。
続いて自作詩朗読として志賀アヤノさんが「暖簾」を、樋口冨士枝さんが「図書館への道」、
池田久雄さんが「コーヒーと板チョコ」を読み、秋葉信雄さん、片岡伸さんが続きました。
出席者は両会の会員に加えて、4、5人の一般参加者も加わり17人。予想を超える出席者数でした。
会員外の方が参加したこと、好きな詩人の作品を朗読する楽しさを味わえたことで予想以上に
充実した意義ある集まりとなったのではないでしょうか。
町のどこからも詩を読む声が聞こえてくる――そのように詩があることが普通の風景となっていく
一歩となればいいですね。 (根本明)
…… 9月・詩話会(第85回)…………………………………
〇9月15日の第85回詩話会はフリートークでした。出席者14人。司会・根本。
トークで興味を引かれたのは石井真也子さんの映画『キラキラ眼鏡』の紹介です。
この映画は、主人公が古書店で手にした本を通して知り合った若者と交際を深めていくが、
彼女には不治の病に冒された恋人がいて……といった粗筋のよう(正確ではありません)。
主演に池脇千鶴、若者役に金井浩人。監督・犬童一利。注目は映画の舞台が船橋となっていて、
馴染みの場所が登場するようです。現在上映中。
樋口恵子さんは中西礼の詩「若者よ戦場へ行くな」を朗読。朝倉宏哉さんが7月に急逝された石村柳三氏を偲んで、
氏を描いた詩「幕張本郷から新検見川まで」を読まれました。
〇朗読作品
秋元炯「侠客異聞 町兵衛斬殺」、 秋葉信雄「Starlings (too many)、 黒田忠也「とほほ」、
翔「暗い夜空にかぐや姫」、 おさや川静子「父のあぐら」、 長沢矩子「呼びたい」、 村上久江「縁」、
白井恵子「夏の朝に」、 石井真也子「九十九里~日没の陽まで」、
樋口冨士枝「夏野菜」、 野村俊「石工のピグマリオン」、
朝倉宏哉「幕張本郷から新検見川まで」、
結城文「空は思いの抱擁韻」、 根本明「揺籃」
〇白井恵子「夏の朝に」
鈍い銀色の水が揺れて
川は空へ消えて行く
いちめんのもやのなかでそこだけは光を集めていた
月夜のなごりなのか
わずかな朝の気配を映しているのか
そんなことを思っていたら
水の上を、アオサギが一羽ふわりと姿を見せ
大きく羽をひろげて渡っていった
昨日も今日も
そして明日へも軽々といくのだろう
くらべて
つまずいて、転んで地を這うようなと
日々が頭をよぎる
膝の擦り傷、うでに滲んだ血
ヒリヒリとした痛みが顔をだす
いくつになっても
砂利の坂道で思いっきり転んだ子供だ
波はゆっくりと空になる
水に漂っていた羽の影も
しだいにうすらいで
家々からちいさな音がはじまる
空に流れた川が香りの良い風になるといいなあ
今日も暑い夏の日
後悔も残念ももっていよう
痛みとともに耳を澄まそう
…… 8月・詩話会は 夏休み…………………………………
…… 7月・詩話会(第84回)………………………………
7月21日は、井田三夫さんの講話「テオフィル・ド・ヴィオーについて」でした。翻訳書『テオフィル・ド・ヴィオー全集』(国文社)刊行を機に、詩人論や若いころの作品との出会いなどを話していただきました。この全集は2段組で756頁にもなる大労作です。
ヴィオー(1590-1626)は17世紀初頭のフランスのマニエリスム・バロック詩人。自由思想家でもあり、19世紀ロマン主義や現在までも大きな影響をもちつづけているという。宮廷詩人として活躍し、無神論者として死刑判決、国を追われるといった波乱の生涯を送る中で膨大な詩篇や詩劇などを書き残した。モラリストであり、ロマン主義的であり、日本のアニミズムに通じる面もある複雑で多面的な、魅力的な表現者だった。井田さんは風刺詩などにも意義があると述べた。
ヴィオーの生誕地での講演のこと、パリでヴィオー作品集の原本を手に入れたことなども熱心に話された。ヴィオー研究の第一人者によるこの全集によってヴィオーが更に読まれていくきっかけとなることだろう。私たちは幸いにもその一端に触れることができた。
〇ヴィオーの詩「兄へのテオフィルの手紙」から(井田三夫・訳)
(二十一)
もしも天のお召しがあったなら、
生きてもう一度、
私はわが葉とわが眼に、
あのパヴィの赤い輝きを楽しませよう、
またマスカットブドウの香のするあのネクタリンも
その外皮の紫紅色はカリストの飾り気ない顔色よりも
微妙な色合をしているのだ。このネクタリンは、
私に、倹約家の眼でもって、
そこに残されている足跡から誰が私の桃園を
荒らしにやって来たのかを調べさせるであろう
(二十三)
私はわれらの柘榴(ざくろ)の木から
開きかけた紅い実を摘むだろう。
樹上には、天神が月桂冠の葉を冠しているように、
天空がいつも緑の葉を守護しているのだ。
私は見るだろう、あのおい茂ったジャスミンが
とても広々とした並木道に
路いっぱいに緑陰(こかげ)をつくっているのを、
またそのジャスミンの花が並木道を芳香で包み、
その花が、氷砂糖の中でも
香気と色合とを保っているのを。
■詩の朗読 合評作品
松田悦子「夢駆けるみどりの電車」・野村俊「空の色」・朝倉宏哉「幻の永徳寺小学校校歌」・
樋口冨士枝「空」・石井真也子「風向日葵」・村上久江「ことば」・長沢矩子「不思議な のに」・
翔「ノスタルジー あの白いグランドピアノ」・大掛史子「伊勢物語逍遥(その十二)紀有常」・
秋葉信雄「Rain Jusut in you」・根本明「遠い声が」
…… 6月・詩話会(第83回)………………………………
講師 朝倉宏哉さん 「肉声で聞く宮沢賢治」
朝倉宏哉さん(右)、司会:石井真也子さん(左)
6月の会は朝倉宏哉さんによる「肉声で聞く宮沢賢治」でした。
これは昭和60年9月19日放送のNHK岩手による30分番組『わたしの宮沢賢治』の音声版で、
朝倉さん自身がプロデュースした番組です。宮沢賢治(1896(明治29)~1933(昭和8)の没後 42年の
命日近くの放送で、今年はその43年後となります。賢治作詞作曲の「星めぐりの歌」「ポランの広場」などを花巻のママさんコーラスが歌い、花巻農学校の
教え子の話と賢治作詞の校歌、詩人・菊池暁輝による詩「原体剣舞連」の朗読、また賢治に影響を与えた
藤原嘉藤治の話など密度の濃い内容でした。賢治の校歌の異色さや詩の朗読がとくに印象深いものでした。当時は賢治を語る人たちが存命し、彼らの言葉から「そこに生きた賢治」といったものに触れる気がしましたし、
この放送からまた同じくらいの時が流れたのだなという不思議さも感じました。(出席・15人)■詩の朗読 詩の発表と合評
〇朗読作品
・寺園梛央「あめりかふうけいシリーズ(三歳の朝)」 ・川方祥大「どうやってもわからないぼくのうた」 ・
井田三夫「テオフィルによって収録されなかった、彼の死後発表された韻文作品」 ・根本明「草木、あるいは 2」 ・
大掛史子「御堂関白妾」 ・翔「枯野の夢」 ・池田久雄「会社をやめると」 ・長沢矩子「かたつむり」 ・
村上久江「ガラス戸いち枚隔てて」 ・岡田優子「柿の実」 ・野村俊「思い出からはるばる訪ねてきたふたり」 ・
結城文「夜の川音」 ・白井恵子「みあげれば」 ・樋口冨士枝「梅か杏か」 ・石井真也子「風物語を」
〇長沢矩子・詩
「かたつむり」
背中のうずまきの中は
過去がいっぱい
言葉がいっぱい
優しい心が 懐かしい声が
あふれて はじけて
殻が毀れてしまいそうそれで かたつむりは
ゆっくり ゆっくり動く
もう年なのだしそれでも しなびた二本のアンテナから
かすかに届く言葉のかけらやびっくりマーク
遠い空から ぽつ ぽつ
葉の上に雫 ポツリとかたつむり
雨がうれしい
空が好き
時が来て 干からびて
体ごと蒸発する日も
きっと好き六月
紫陽花が濡れている
……5月・詩話会(7周年記念講演)………………………………
5月19日の会は活動開始から7年目。日原正彦氏に「言葉の深度について」という講演をして頂きました。
まず詩的言語とは何か、ということから。
ヤコブソンによれば、言語は多くは実用的、日常的、現実的伝達な機能をもつが、詩的な言語はそうではなく
幻想的夢的なものだということ。
そして文字言語や大和言葉の起源に触れ、万葉仮名の成り立ちを解説。
そこから詩的言語は人の心に届く深度をもつものであり、想像力によるポエジーを孕むものだと説きました。
そうした深度をもつ作品の例として八木重吉の「素朴な琴」、ご自身の作品「水玉」を読みました。
言葉の原理から歴史にまで及ぶ広がりのある講演でした。
当日は遠くからの初参加者が数人あり、アメリカから一時帰国しての出席もあって、
充実した記念会となりました。出席23人。
「水玉」 日原正彦
窓際の
テーブルの上に
いつ こぼしたのか
小さな水玉
午前十時の青空を映している
ひとさしゆびで その
極小の 青空に
そっと さわってみる
水玉は かすかに揺れて
指紋の渦のかすかに揺らぎそうなそれを濡らす
なめてみる
水の味がする(あたりまえ)
透明な味だ
が ひょっとして
午前十時の青空の味が そこに
かすかにかすかに混じっているのかもしれない
と 思う舌先がある
そんな なんでもないような 一刻でも
あれば
それは いいものだ
なあ
君。
◇参加朗読作品
黒田忠也「市中味廻り」 翔「最後の同窓会」 池田久雄「感性を探しに」 長沢矩子「風と仙人」
村上久江「月よ 皓皓と」 松田悦子「小鳥のように」 朝倉宏哉「ウルトラマラソン」
樋口冨士枝「ハンカチの木」 おさや川静子「餓鬼の頃」 岡田優子「先生の書斎」
井田三夫「テオフィル・ド・ヴィオーへのオマージュ」 山下佳恵「いずれツバメかカキツバタ」
柏木勇一「いちまい」 根本明「草木あるいは」 大掛史子「雲隠」 秋元炯「初鰹」 野村俊「健闘を讃える」
寺園梛央「あめりか風景シリーズ」 白井恵子 石井真也子
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