千葉詩話会》実施 報告 〈 N 〉

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2025年1月例会(第118回)
秋元炯詩集『幻視録』を読む
 1月18日(日)13時30分 幕張公民館   第2会議室にて
  

秋元さんの人気の高さによるのか多くの参加者があって熱心な合評で盛会となった。 詩集は5章だて。
根本なりに特徴を上げると


 「ガレキの町」「処刑」など戦争や不条理な日常を想起する作品が多く、が多い。現実を反映した切迫感がある寓話。
 「竜がいた朝」は新しい母と恐竜の出現を通して馴染んでいく詩。父や叔父、妹や奥さんなどが登場し、家族の思い出をなつかしく書く。
   作者にしては珍しい作品が多い。
 星座に発想した「星めぐり」、詩的な造形を試みた「雲の眼」「鷲の女」「キツツキ」など印象的作品で構成される。
 「寅を撃つ」など秋元詩らしい寓話的発想し展開される詩篇の章。
 「ほら吹きクラブ」「大悪人往生」など自分の空想性、物語性をユーモアで見つめ返す作品群。

 

 

 

 冬の時代


 若かった頃 一年間だけだが 夫婦すれ違いの生活をしたことがある。寒い時期が特に辛かった。

 夜勤の仕事を終えて僕がアパートに帰るのはいつも七時過ぎ。女房は少し前に勤めに出ているので ごくわずかな時間差で朝は会うことができない。
 眠くてたまらない僕は 食事にも手をつけないで蒲団に入る。すると ほんの少しだけ女房の温もりが残っている。
 その温もりに凍えた体を押しつけながら 今頃は多分バスの中にいる女房のことをぼんやり考えている。手足が冷えていて なかなか眠りにつけない。
  ひたすらじっと温もりが体に行きわたるのを待っている。

 カーテン越しの窓の外の光が 少しずつ明るくなる。窓の前の通学路を通る子供たちの声も 賑やかになってくる。
  そんな世間一般の世界から 僕はゆっくり眠りの闇の中に沈み込んでいくのである。

 

 竜がいた朝

 新しい母がうちに来たのは 僕が五歳
の時だった。美しいが派手な感じの人で
僕にはなるべく近づかないようにしてい
るみたいだった。

 父の再婚は初秋の頃。それから三か月
くらい経った 冬なのに妙になま温かい
靄がかかった朝。玄関を出ると 門まで
続いている石畳の通路に そいつはいた。

 大きな鰐が寝ていると思った。鰐は動
物園で何度も見ていた。その頃 僕はな
ぜか鰐が大好きだった。そいつは 腹を
べったり地べたにつけて 眠りこけてい
る。しかし よく見ると 鰐にしては胴
周りが大きくて 後ろ足も長すぎる。そ
の足の先には 長くて鋭い鉤爪。

沼くさいにおいがした。息の音まで聞
こえそうな位置に立っていながら 逃げ
ようとか 家の人を呼ぼうとか そんな
ことは考えなかった。

 もっと近づくと そいつは図鑑で見た
恐竜にちがいなかった。身体全体の力が
抜けきっていて とても深い眠りに沈み
こんでいるのが分かった。ぴたりと閉じ
た巨大な瞼 それを恐る恐る指で押し広
げてやる。瞼の下にはもう一枚 灰色の
膜が覆っていて 眼球は見えなかった。

その時 家の中から母の呼ぶ声。急い
で戻ると テーブルの上にパンとサラダ。
その日 父は早くから出かけていて 家
の中には僕と母しかいなかった。

早く食べて 冷めてしまう と母。ト
ーストをひと口食べると それはもう冷
めてしまっていた。トーストを半分くら
い食べてから 僕は思いきって言った。
母さん 玄関の外に 鰐みたいなのがい
る。母さんと呼んだのは この時が初め
てだった。母は何も言わず 暖炉の火か
き棒を手に取ると 玄関の方に歩きだす。

 後ろからついて行くと 玄関の外 も
う恐竜はいなかった。けれども そいつ
がいたところは黒く濡れて残っていた。
大きな鰐がいたねえ と母は言った。た
しかに その黒い影の形は 鰐そっくり
だった。そして母は 僕の首すじを 猫
の子をつまむみたいに掴んできた。そん
な風に母に触られるのも初めてだった。
本当に恐竜がいた と僕は言おうとした
が出来なかった。 ご飯 食べちゃおう
よ。母に首すじを掴まれたまま部屋に戻
る。母は僕をぎゅっと抱き寄せると そ
のあと トーストを温めなおしてくれた
のだった。

 

 

〇出席者の感想

秋葉 各章の特長をまとめ、パロディ的であること、匂いが多く出ていて巧みな表現が多い、「短説」に親縁する展開と言葉の量です。

白井 物語として読める。「現実を書かない」が印象的。

池田 物語詩。パロディ性や教訓を見る。「冬の時代」「虎を撃つ」「大悪人」等に惹かれる。

降旗 表現に揺り動かされた。「星めぐり」がいい。

村上 「ガレキの街」に自然災害を思わされる。

恭仁 悪夢を見ている感覚がある。「おくぐり様」がいい。

朝倉 新しい面白い詩を書こうとしている。荒唐無稽でおどろおどろしさがあり、つかみどころがないもどかしさも感じる。「キツツキ」がいい。

  

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出席 樋口冨士枝 白井恵子 秋葉信雄 植松礼子 降旗りの 庄司進 恭仁涼子 池田久雄 村上久江 谷美和子 中村妙子 朝倉宏哉 根本明 秋元炯

 

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