千葉市詩話会-5-1

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『詩話会冊子4号』より  2021年3月9日

 

 私たち千葉市詩話会は2011年5月に始まりました。東日本大震災から2か月後、
日々津波の行方不明者が報じられ、福島原発のメルトダウンの被害が拡大中でしたし、
私たちの日常生活にも影響が及んでいました。その中でなぜ詩を書くか、
どのように書いていくかが問われていました。

10年経ったいま、新型コロナ感染症染という思いもよらぬ災厄のなかで、さらに詩を問い直す状況となっているように思えます。
今号はコロナ禍を見つめた作品が目立ちます。(根本)

  

                 

   

         長沢矩子

街路樹が揺れている
風が枯葉を攫い
思い出を攫い
夫を攫っていった

 

サァーッ
サアーッ

樹を揺すり
過去を揺すり
わたしを揺する

背負いきれない喪失
埋めようのない空洞に
風が冷たい

立ちすくむわたし

大丈夫
   ぼくが居るから

誰?

風は思いのままに吹く
  あなたはその音を聞いても
          それがどこから来てどこへ行くかを知らない

                    (ヨハネによる福音書3章8節)

 

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コロナになった娘

       樋口冨士枝

昨年のクリスマスも終わった頃
都内に住む母子家庭の次女からメール
二十四日から熱あり保健所の検査で陽性だったと
一瞬 何?と考えてしまった
二度目のメールで入院待ちですとあり
えぇーーと驚きと同時に
まさか我が娘が……

私の心臓はドキドキが始まり
体も震えが止まらなくなった
あわせて同じく都内にいる長女にメールする
長女はもう連絡を受けていて
いたって冷静であった

「お母さんがオロオロしてどうするの」
どっしり構えて私の連絡を待ってという
確かにわたしがあわてても仕方がない
長女の冷静さがいまいましい
待つこと一週間
生きた心地がしない日々が続いた

八日目にやっと入院出来たとのこと
ひとまずほっとすると同時に
子供はどうするとまた心配になる
濃厚接触者で自宅待機だという
楽しいはずの年末年始を
ひとりで過ごす孫(小学五年 男の子)のことを考える
電話にはしっかりと応対しているが
不憫でしょうがない

年明け二日目
熱が下がったので退院という
都内のコロナ陽性者二千四百何人と最高になり
押し出しの退院となったのだろう
若いので自宅療養になったとのこと

嘔吐で何も食べられないまま
一週間が続いたようだ
やっとスープが飲めるようになったと
本人からメールか来た時
ほっと胸をなぜ降ろした正月明け
その二週間余りの長かった日々を
私は忘れない
初めて神様に心から手を合わせた

   ※現在は仕事に復帰しています

   

    

  開 眼

      七 まどか 

青空が重たい瞼を開けた
ぱっくりと割れた隙間から
大きな赤い瞳が
ジッと地上を眺めている
時には慈愛の聖母のように
目を細めて微笑み
時には無慈悲な悪魔のように
冷たく睨み付けていた
誰一人、その瞳には逆らえず
大地に五体を投げ出して
支配されることに徹していた

何処からか
一羽の小鳥が迷い込み
大きな赤い瞳の瞳孔を
鋭い嘴で突いた!
赤い瞳が流す涙もまた
鮮やかな赤色だった

涙は地に臥す我々の喉を穿ち
無数の小さな水溜りを作った
ぽっかりと空いた私の喉の
ぽつんと残った喉仏を
止まり木とした小鳥は
水を一口、啄んだ
お前だけは赤い瞳に支配されるなと
声にならない言葉を吐き
静かに瞼を閉じた

雨が止んだ空を見上げると
小鳥は西へ向かって飛び立った

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