千葉市詩話会1- 2    1-1

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「詩話会冊子」第1から (ページ 続)

 

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  ダシの素    

          池田久雄

著名な料理研究家がいてね 
稀代のグルメさ
有名レストランの大評判の目玉料理に
こいつぁ絶品 と舌鼓を打ったのさ
職業柄レシピ分析は得意中の得意 
ところがだ
目玉料理の隠し味が杳として分からない
あれこれ試すがその味に辿り着けない

好奇心と探究心の固まりの研究家は
居ても立ってもいられず
真夜中にレストランに忍び込んだのさ
厨房の大型冷蔵庫の一番奥底の黒い袋
ビニールでぐるぐる巻きにされた塊り
隠し味はこいつが怪しい
興味津々広げてみたらびっくり仰天
紛れもなく切断された人の手首の数々

あっ それ 昔テレビで見た
確かヒッチコック劇場の短編だよ
僕が求めている物はまさにこれだ
こうした着想の奇抜さ面白さ
僕の詩にはこの味付けが足りない
ダシの効かないすまし汁みたいなものだ

もともと高邁な思想や哲学など縁遠く
いじましく拙い小品でも
せめて着想の意外性と
全体の流れの良さは追い求めたい

なぁんて考えるほどに頭が塞いでしまう
居ても立ってもいられない
こうなりゃ有名詩人の家に忍び込むか
書斎の机の引き出しの一番奥から
一塊の(詩のダシの素)が見つかるかしら

  

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  机 上
         野村 俊

あなたの机上にはあなたがいます

数冊の本立て
好みの電気スタンドや置き時計
仕事を支えるノートやペン
二、三日のメモのスケジュール
昨日届いて
返事を書くつもりの封書

そして、今日の遅い朝には
タイガースのマグカップに熱い珈琲
メモ書きの電話番号の走り書き
幾葉かの写真に写る面影
便箋の書きかけの文

昨日とは違う微妙な机上の変化は
あなたが生きていることを語っている
あなたの影が揺れている
あなたのつぶやきが隠れている
あなたの叫びが黙っている
あなたの願いが映る
あなたの祈りが見える

ときに日頃の
あなたの言葉は音楽のように嘘を奏でる
あなたの背中には我慢という甲羅がある
あなたの笑顔は花のようにあなたを飾る

けれどもあなたの机上は
ほんとうのあなたを知っている
ほんとうのあなたを語っている

 

  夜半 手紙を書く
               石井真也子
             
防風林を越えてきた夜の風
月見草のあかりをもち
いずれ砂になるであろう砕けた貝の名前を忘れて

小さく折りたたんだメモ用紙に
言葉を書き散らした
詩らしきもの
海の冷たさを現すことも
ましてや空と海の青を現すことも
出来ぬまま

防風林をぬけてくる風の音を聞く

海の底からあがってくる深い水の音
夜の底で鉛筆で書いた折りたたんだ紙を広げる
便せんに清書して青色の封筒に入れる
それを机の引き出しに音も立てずにいれる
そんな手紙が何通も重なる

夜半目を閉じると
引き出しの中から海鳴りの音が広がる

 

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