千葉市詩話会1  Booklet 1-24号Top

 

「詩話会冊子」第1号から   

 季節は人がどのようであれ巡ってゆき、いま曼殊沙華が野を染めています。一瞬の華やぎですね。

 千葉市詩話会はこの3月から、新型コロナウィルス感染を考慮して従来のコミュニティセンターでの活動を
休止しています。感染の終息はまだまだ見通せません。
そこで皆さんの作品を「詩話会冊子」として綴り、合評しあうこととしました。

 冊子は奇数月の25日締め切りで、作品のコピー30部を根本宛お送りください。
  ここには各号の作品を数点ずつ掲載していきたいと思います。

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 柘榴(ザクロ)を割って ―― Open the border
                    

                       秋葉信雄

 

アメリカは 少年の想い出
 (ロサンゼルスは その名のとおり Los Angeles 「天使」の街角?)
リトル・トーキョーは もしかしたら私のフルサト
 (ロスのダウン・タウンの一角だったな)
韓国と中国とblack people と 日系人の街、ダウン・タウン
 (しかし その周りを圧倒的な white people の
  集団が取り囲んでいたな)
それは 今も大差ない
  (日本は 平和=ホアピン、だったな)
さあ 今日も 見えない牙を 研ごう
 (力道山に噛みついた フレッド・ブラッシーのようにな)

ワタシの四歳までの ロサンゼルスの記憶は
すべてアメリカン・ビアの バドワイザーの缶に 閉じ込められた
 (お前は まだ その缶から出たことがない)
しかし 缶の外から 音がする
 (朝鮮戦争、ベトナム戦争、全国学園闘争、湾岸戦争、大震災、
  同時多発テロ、シリア内乱、マスクの行列などが 絶え間なく
  缶を 叩くんだぜ)
缶の中の日常も 生爪をはがしに来る <厳実>さ

ワタシには 東京の暗い長屋の隅の
 (錦糸町や 池袋や 新宿の喧騒の中)
少女たちの 消え行く呪いの声が
 (SNSや Facebookといった 幻の文明玩具のカタワレが)
いつまでも 鼓膜に響き渡る
 (さあ、そろそろ アンタの出番だぜ、缶を開けるぜ)
ワタシの身体は もう ユーラシアの風の中に
半分 染み出している

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孤 塁
           秋元 炯

火の玉みたいな太陽
ビル街の彼方で 黒い雲を焼き焦がしながら
しだいに雲に呑み込まれてゆく
この部屋から 夕陽を見るのは久しぶりだ

もう一週間 マンションの部屋から出ていない
パソコンで資料を作って 会議をして
四角い箱の中だけで仕事は終始している
楽なのだが なにか虚しい

ベランダで 前から野菜を作っていた
葱 三つ葉 パセリ 韮
これにラーメンと缶詰があれば
まだしばらくは暮らしていける

夕陽が いつの間にか見えなくなった
黒い雲が重なり 渦巻いている
人と全く会わない毎日
砂漠の塹壕にひそむ斥候みたいな生活だ

頭上を火矢のように情報が飛び交っている
矢は唸りをあげながら飛んでゆき
時々 遠くから破裂音が聞こえてくる
電子機器をいくら操作しても戦況はよく分からない

日が暮れて 暗くなると
窓ガラスに守宮がやって来た
窓に寄って来る虫を狙っているのだろう
今夜も 明かりを消さずに眠ることにする

  

        

  犬の性格
           朝倉宏哉

うちの犬は十二歳
ニンゲンならば
還暦を超えた辺りか
茶色い頭が
この頃めっきり白くなった

おとなしくて滅多に吠えない
番犬にはならないが
狭い庭を一匹女王国にして
気ままに振る舞い
空腹になると餌をねだる

名前は娘がつけた
ラン 雑種である
十二年前
保健所に収容された犬猫を救う団体
ライフボードから譲り受けた

生後三か月でうちにきたとき
茨城生まれというだけで
あとは何もわからない
おてんばでめんこくて
すぐにわが家のアイドルになった

成長につれてある性格が顕著になった
雷と
花火と
ニンゲンのこどもを
極端に怖がるのだ

雷と花火はわからないこともない
ニンゲンのこどもがわからない
「わあ ワンちゃんだ」
よちよち歩きの幼児にさえ
怯えてパニックになる

こどもの声が聞こえると
慌てふためく 
ましてや
ボールを蹴る音には
半狂乱になってヒィヒィ泣く

摩訶不思議 不可解
ボクは朝夕の散歩のとき
幼稚園や学校の方角を避ける
こどもと出会わないように
さびしい道を選んで歩く

引き引かれ老老散歩ランとボク

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