千葉市詩話会4-2    〈4-14-3

詩話会冊子4号作品

 

                     

白井恵子  「秋の林とねんねこと」

  

しゃかしゃかしゃわわー

落ち葉が渦をまいて吹き込んでくる

台風で折れた木がかたづけられ

雑木林に小さな空き地がうまれた

夕暮れの空気にざわめいて

樹冠では葉群が炭酸水のように発砲している

なにを語っているのだろう

今届いた、風のにおいのことなのか

百年前に立ち寄った小鳥のことなのか

立っていると

夜を迎える空への

そして

私の昨日の痛みへの子守唄のように聞こえる
 

我が子がまだ赤ちゃんの頃

黒いビロードの襟がついた

えんじ色のねんねこを着ていた

姉にもらったそれは、当時でも時代遅れだったが

子供をおぶい、ねんねこを着ると、安心できた

ある日

ばたばたと家事をやりながら、ひょいと鏡を除くと

寝ていると思っていた背中の子供が

ねんねこから顔を出し、目を大きく開き

好奇心いっぱいにあたりを見ていた

人はこんなにも、ワクワクして はじめるのか

小さな驚き
 

雑木林の隙間から白い月がみえる

葉群の子守唄に思い出した

ビロードの襟の滑らかな肌触り

消えてしまった時を思うことが寂しいのは

秋の夕暮れの乾いた気持ちのせいなのか

葉群の音色が

そんなこともあんなことも

ささやくように歌うようにさらっていく




時女礼子  「大失敗の朝」



「今朝はどうしたんですか? 乗り越したの?」

仕事先の主任から尋ねられた。

 

この日千葉駅乗り換えで

慣れない10番線ホームへと移った

電光掲示板を確かめながらだったので

ホームも間違いなかった

赤いきれいな電車が到着し

少し不安だったが乗車した

走り出して間もなく

アナウンスを聞いて青くなった

東京行きだった


 
車掌さんが来たので

訳を話して次の駅で下車したいと告げた

終点迄ノンストップと聞かされ

東京駅で快速に乗り千葉駅に戻るよう

親切に教えられた

時刻はまだ8時過ぎなのでスーパー開店時間に

間に合う可能性もあった
 

目的地の物井駅に到着したのは10時少し前

急ぎタクシーにとび乗った

今日は頑張って売らなくちゃ!

力が入った、結果的に普段の10倍が売れた

商品は巨峰だった

 

仕事終了後、間違えて乗った電車の色は

赤だったことや成田行はさすがきれいな電車だわと

勝手に納得したこと等を主任達に話し大爆笑となった。
 

おおらかな若い主任様、

今朝はご迷惑をおかけしました

  

4-14-3

……………………………………………

Home Top冊子掲載目次

Copyright(C) chibashi-Shiwa All Rights Reserved