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千葉市詩話会-5-4

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花木 (かぼく)
      池田久雄

ねえ 君の作る詩のモチーフに
とんと花木が顔を出さないね
通勤途上花木の街路樹の下を
せわしなく行き来したじゃないか
春若葉に夏木立 秋紅葉に冬の枯木
季節感いっぱいだったじゃないか

そうだね ぼくの詩によく登場するのは
大都会のくすんだ色のオフィスビル
古びた壁に机と椅子と背広の男たち
なんか殺風景だね おまけに鬱陶しい
でもね 会社を定年で退いたあと
無性に雑踏が恋しくなってね
都会をぶらついたら気づいたのさ
このコンクリートジャングルは
桜や銀杏やケヤキの並木道ばかりか
懐深く沢山の花木をまぶしているって
ハナミズキや百日紅や夾竹桃が
ぼくに優しく話しかけて来る

きっと君は会社で周りの人間どもに
余計な気遣いで神経を擦り減らし
花木に眼が向かず素通りしていたのかも
人の愛は最初に異性 次にペット
そして草花 最後に樹木に向くって話だ
してみると君の人生は終盤に入ったね

いやまだまだ 遅ればせながら今は
図鑑を手に花木に罪滅ぼしの挨拶回りさ
ドブネズミ色の背広をスパッと脱ぎ捨て
カラフルな出で立ちで木肌にハイタッチ
これから向き合う愛しい日々の中で
ぼくの貧しい才能が繰り出す詩歌が
一瞬でも光彩を放てると嬉しいな
みずみずしい花木に励まされ
はなやかな花木に彩られながら

  

  ほら吹きクラブ
                  秋元 炯
俺の髭はね なんかしらんけど
満月のね 夜になると伸びはじめるんよ
男のあだ名は熊さん
顔中髭だらけ しかも白や茶色いの迄混じっている
満月の夜はね まず女房がそわそわしだす
それで すぐに家を飛び出していく
まあ ジョギングが趣味なんで
あちこち走り回って夜遅く迄帰ってこない
男の女房は体格のいい大女
ばさばさの長い髪
僕は思わず
満月の空の下 ガーとか吠えながら
走っている女房殿の姿を目に浮かべてしまう

女房が家を出て行く音がしたとたん
髭が伸びはじめるんよ
じゅるじゅるって伸びて
十メートルくらいになるね ほんと
それで ほら うちはマンションの三階じゃない
窓からね 髭をぶわっと垂らしてみた
するとですよ
たまに女が釣れる
いや ほんとに たまにだよ
なんか髭を引っ張るなあと思って
ひょいと見ると
女が下で髭にしがみついて 涙目で見上げてる
しかも俺好みの細くて小さい女の子
でも釣り上げるのは髭が傷んじゃってだめだからね
ちょいと待ってろって
髭を取り込んで 体にぐるぐるって巻き付けて
急いで下りていく
すると 女はちゃんといるんだよ
でも なぜか育って大きくなってる
ぷくぷくってなっちゃってる
こりゃいかん だめだ さいならって
髭もしゅるって縮んじゃう
そんなことが何回かつづいたんだけど
昨日だよ
満月だったでしょ
昨日も髭を窓から垂らして
ワインをちょびちょびやってた
するとね いつもよりずっと軽くてさわやか
さわさわって 引っ張ってる
見てみると なんと小学生くらいの女の子
でも目が大きくて飛び切りの美形
この子なら 下に行く間に
丁度いいくらいに育ってるんじゃないか
そう思った
けど 髭を巻き上げたりすると時間がかかる
いつも それでやられっちゃう
どうしようと思っているとね
ベランダにいつの間にか非常階段
って言うかハシゴみたいな奴が取りついてる
あっ これなら髭につかまらせたまま下りていける
待っててよっ
急いでハシゴにつかまって
女の子から目を離さないで下りていく
女の子は少しも大きくなってこない
むしろますますきれいに見えてくる
下りていってあともう六段くらいで地面なんだ
女の子は満月みたいに笑ってる
よかった だがここで焦っちゃいかん
段を踏み外したりしたら
すべておじゃんになるかもしれない
手元をしっかり見て 二 三 四 五 六
まだ着かない 七 八 九 十 十一
おかしいな 地面の下まで潜ってしまいそうだ
さらにもう十段 全然足が着かない
ぞっとした どうなってんだ
ふいと横を見ると
見たことのあるこわい顔
ざんばら髪の女房が 髭を鷲づかみ
大口を開けて笑っていたんだ

  

 

鳥風

            白井恵子

上昇気流をつかまえて
飛翔
空たかくを行く
目に映る星は鋭く輝いて

海岸を砂が走っていく
地を這うように風がうまれ
まきあがる
せめて
南白亀川の河口あたりまで
風をねじふせて進もうとしたのだが
ニ、三歩であきらめた
口の中は砂粒でじゃりじゃり

海鳴りが轟く
たちすくみなから
旅行く鳥達に思いを馳せる
遠い
憧れはいつも遠い
風にのっていくものの存在を思い
私はここにいる

鳥達は
もう羽を休めているだろうか
舞いあがる砂のむこう
波がたたき落ちるあたりに
星一粒
忘れ物のように光っていないか
顔にあたる砂が痛い

 

病室で
    長沢矩子

そんな目でわたしを見ないでください。
一緒に帰りたいのですね
でも 連れていけない
抱いてもあげられない
面会時間はいつもぎりぎり
米寿の赤ちゃんがわたしを目で追う

そのお腹に巣くっているドス黒い塊を
この手で抉り出して
外に放り投げてしまいたい

けれどもいつも窓は開かないのだ
しっかり施錠されていて
私の力では開けられない

外は明るくて
空はあんなに広いのに

空洞

ポカっと空いたわたしの洞穴に
何を入れたらいいのでしょう

散りしきる桜のなはびら
子供たちの笑い声
ヴァイオリンソナタ第二楽章
志ん朝の「酢納豆」
礼拝説教
優しい電話
嬉しい手紙
神さま

ああどんどんどんどん入れてください
神さま かみさま かみさま
あなたでわたしをいっぱいにしてください
そうして連れていってください
去年八月そちらに行ったあの人のところへ

               

のらねこのマーチ
       時女礼子

ノッシ ノッシ ノッシ ノッシ
おいらはさ この町一番
でかいネコだよ トラネコさ
この路地裏が 縄張りで
若い衆から 一目おかれ
夜は近くの 公園で
集会なんかを やるんだよ
ヒタヒタヒタヒタ 歩いてさ
月夜の下で 顔合わせ
 ※今日も一日 無事だった
  可愛いあの子は いないけど
  早く帰ろう おいらの寝ぐら

ノッシ ノッシ ノッシ ノッシ
おなじみの 民家の庭は
心やすまる エサもある
この縁側の ひだまりが
おいら一番 好きーな場所さ
さてとそろそろ パトロール
見知らぬ猫ども 来てないか
スタスタスタスタ 歩いてさ
すみからすみを チェックする
 ※リフレイン

     
    この童謡は昨年、日本作詩家協会に提出した詩ですが、最近メロディーが付きました。
    ユーチューブにアップされましたら又お知らせ致します。

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